大阪・北加賀屋のクリエイティブセンター大阪(旧名村造船所跡地)で開催されたグループ展 HOMEWORKS 2025 10th Anniversary に、IE3として光の彫刻作品を出展してきました。2026.2.28 ~ 3.1 の3日間。
作品名は anōnumos。
anonymous の語源、ギリシャ語の方の読み。「名前も意味も持たないもの」。
特定の意味や機能を持たない、ただ光を放つ構造体。デジタルサイネージのような明確な情報伝達ではなく、より原始的な「光る物体」としての存在。

作品について
80cm四方、高さ2.3mのモノリス状のオブジェクト。前面と背面にLEDパネル(128 × 512px、3.9mmピッチ)を設置し、周囲を鉄板で覆った造作。中央は単管でトラスが組まれている。鉄板には造船所跡地との親和性を意図して、塩水による実際の酸化プロセスで錆加工を施した。
LEDの表面にはアクリルパネルを配置していて、粒感が見えづらく、少しふわっとした不思議な光になっている。
で、前面と背面で全く違う性格を持たせた。
前面はカラーや乳白色、蛍光のアクリルを混ぜて配置している。同じ映像を流していても、パネルの位置によって色の出方が全然違う。赤っぽく見えるところもあれば青く透過するところもある。鉄板も錆加工はせず、自然に錆びていく途中の状態をそのまま見せている。新しさというか、変化の途上にあるものとしての表情。
背面は真逆で、黒一色の拡散アクリル。LEDの粒感が完全に消えて、面全体がぼんやりと光る。鉄板には塩水を塗って赤サビと黒サビのリアル加工を施した。(マジで錆びさせてる)造船所跡地の空気に馴染むように、朽ちていくものと光るものが同居している感じ。
ひとつのオブジェクトなのに、表と裏で全然違う。これが結構面白くて、来場者が裏に回った時に「あ、全然違う」ってなるのが狙い通りだった。




ソフトウェア
映像はopenFrameworksでGLSLシェーダーを用いた生成グラフィック。約30シーンを用意して、1分間隔で移り変わっていく構成。できるだけ意味性を持たせないように、ただそこに光があるだけ、オブジェクトがその場に佇んでいるだけ、というのを意識して映像を作っている。光の印影がゆっくり変わっていく、それだけ。
テキストも具象的なイメージも一切入れていない。何かを伝える映像ではなくて、光そのものの存在感だけで成立させたかった。
ソフトウェアのアーキテクチャはOSCベースの制御で設計していて、拡張性を持たせてある。例えばその場の気温だったり、周囲の人数だったり、時間帯だったり、そういった環境パラメータによって映像が動的に変化するような拡張ができる。今回の展示では使っていないのだけど、次の展示では何かしら入れたいなと思っている。
固定された作品というよりは、設置される場所に適応していくフレームワークみたいなもの、という方が近いかもしれない。

名前について
anōnumos。anonymousの語源になったギリシャ語で、「an(〜なき)+ ōnuma(名前)」。名前も意味も持たないもの。
今の時代、あらゆるスクリーンが何かを伝えようとしている。広告、情報、エンタメ、通知。全部のディスプレイが「見て」「読んで」「反応して」と要求してくる。anōnumosはその逆をやりたかった。何も伝えない。何も要求しない。ただ光っているだけのテクノロジー。
名前のないもの、機能のないもの、意味のないもの。それでも人はたぶん見る。キャンプファイアーをぼーっと眺めるように。人間が根源的に持っている光への衝動に向き合う作品。
コンセプトを抜きにする、という方向
今回は難しい説明やコンセプトを抜きにして、名村造船所跡地という立地に設置するモニュメントとしてどう強く作るか。その一点だけで作った。
作品の方向性として、コンセプトを練って作る方向と、その場所を利用したインスタレーションとしての方向があると思っていて、今回は完全に後者。造船所跡地にこういうオブジェクトがあって、ぼーっと見ていられる。そんな方向を目指した。
とか言いつつ、Arsに応募する時にDescriptionを書いていたら、結局コンセプトらしきものが出てきた。笑 「デジタルディスプレイから情報伝達機能を剥ぎ取った時に何が残るのか」みたいな話を英語で書いていて、あぁ自分はこういうことを考えていたのか、と後から気づくパターン。作りながら考える、考えながら言語化する、の繰り返し。
チーム
IE3の3人での制作。鉄板加工だけ外注で、錆加工はチーム全員でやっている。
単管やLED造作の設計・組立・発注は全て小岩原くんが一人で担当。自分は中のソフトウェアを、宮本くんがキャプションやロゴ、撮影などを担当。あとは自分と宮本くんが小岩原現場監督の下で指示に従う感じです。笑
- Concept : IE3
- Software / Generative Visuals : You Tanaka (IE3)
- Hardware / Structural Design & Fabrication : Tadashi Koiwahara (IE3)
- Art Direction / Graphic Design : Masanori Miyamoto (IE3)
HOMEWORKS 2025
HOMEWORKSは10周年のグループ展。実は4、5年ほど前に大阪での仕事で滞在制作していた時に、このグループ展を見に行ったことがあって、中の人たちとは顔見知りだった。
今回は主催者の一人にSONYの大西さんがいて、大西さんとは自分たちのグループ展 unframe にも参加してもらった関係もあり、そういった経緯でお声掛けいただいた。
名村造船所跡地と北加賀屋
実は10年ほど前に前職で「記憶の記録」という、実際に賃貸として借りられる部屋をメディアアート文脈で制作したことがあって。場所は違うのだけど同じ北加賀屋の街で、まさにこの辺りでトークショーをした記憶がある。めちゃくちゃ懐かしかった。
ただ、作品同士のつながりとかはそこまで意識していなくて。建築文脈の作品と、場所からインスピレーションを受けたインスタレーションでは自分の中では方向性が違う。
それよりも、IE3としてなんとなくようやく自分たちの好きなものが作り始められたなという、スタート地点に近いような感覚がある。
作品の方向性について最近考えていたこと
ちょっと話が広がるのだけど。
作品を作る上で、訴えたいことや社会批判、文化への批判、何かしらの問題提起が必要なのか、ずっと考えていた。で、最近気づいたのは、自分の目指したい方向はそういった文脈からは来ていないということ。
あくまでも美しさや新しい美的感覚への気づき、商業文化の中での美しさや体験。自分はそこをもとに作品を作ってきたし、これからもそうしたい。強いて言うならジェームズ・タレルのような、何かを問題提起するわけではない方向。
この辺りはまだまだ言語化が難しくて、自分の中でも整理しきれていない。まぁ、作品を作っていく中でちょっとずつ見えてくるものだと思うので、その都度メモっていきます。
Prix Ars Electronica 2026
この作品をPrix Ars Electronica 2026のInteractive Art +カテゴリに応募した。結果がどうなるかは分からないけど、自分たちの作品を国際的な文脈に置いてみる、という行為自体に意味があると思っている。
Ars Electronicaは9月にリンツで開催されるフェスティバル。選ばれたら現地で展示することになる。鉄とLEDのオブジェクトをオーストリアまで持っていくのか、現地で資材を調達して組み直すのか、そういうことを考えるのも楽しい。(まず選ばれてから考えろという話だけど)

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